医療倫理、患者の権利のまとめ【必修問題】

必修問題のまとめ

こんにちは。塾長のFです。

柔道整復師国家試験でのこの分野の問題数は2~3問です。

正直苦手な人多いんじゃないでしょうか?

でも範囲は狭く、少し勉強したらマスターできるので、むしろ点の取りどころになるはずです。

下の方に過去問も載せています。先に過去問したい人はこちら(国家試験過去問)。

今日もF塾でガッツリ勉強していきましょう!

医療倫理とコミュニケーション

医療倫理の4原則

・T.L.ビーチャムとJ.F.チルドレスが『生命医学倫理の諸原則』(1979年)で提唱したもの。

・医療従事者が倫理的な問題に直面したとき、どのように対処すべきか判断するための指針。

1)自律尊重の原則
2)無危害の原則
3)善行の原則
4)公平(正義)の原則

自律尊重の原則 recept for autonomy

・患者自身の決定や意思を大切にして、患者の行動を制限したり、干渉したりしない。

・患者の権利である自己決定権を尊重する考え方。

例)患者に十分な説明をし理解したうえで(インフォームド・コンセント)医療行為を実施する。また患者が医療行為を受けないと決断したならばその意思を尊重する。

無危害の原則 non-maleficence

・患者に危害を及ぼさない。

・体に侵襲性が低い治療方法を可能な限り選択する。

例)糖尿病により足指に壊疽が起きた場合、壊疽の広がりを防止するために足指を切断する。

善行の原則 beneficence

・患者のために患者が考える最善を尽くす。

例)末期がん患者が副作用の強い抗がん剤投与を希望しない場合、モルヒネなどを使い疼痛緩和のみを施す。

公平(正義)の原則 justice

・患者を平等かつ公平に扱う。

・限られた医療資源(人、施設、機器、医薬品)を適正に配分する。

・例)災害、事故の際に患者の重症度に応じて優先度をつける。(トリアージ)

ヒポクラテスの誓い

・古代ギリシャの医師ヒポクラテスが記したとされる医師の職業倫理が書かれた宣誓文。

・医師に対して、徒弟制度の存続、分け隔てない患者への誠意をもった対応、秘密保持などを含め、また生涯における生き方を問いかけている。

~抜粋~

医の神々に誓う。私の能力と判断に従ってこの誓いと約束を守ることを。

1. この医術を私に教えた師を親のごとく敬い、わが財を分かって必要あるとき助ける。

2. その子孫を私の兄弟のごとくみて、彼らが欲すれば報酬なしにこの医術を教える。また医の規則に基づき誓いで結ばれている弟子たちに分かち与え、それ以外には教えない。

3. 私は能力と判断の限り患者に利益すると思う養生法をとり、悪くて有害と知る方法を決して取らない。

4. 頼まれても死に導くような薬を与えない。婦人に流産に導く道具を与えない。

5. 純粋と神聖をもってわが生涯を貫き、わが術を使う。

6. 結石を切り出すことは神かけてしない。それを業とするものに委ねる。

7. いかなる患家を訪ねる時もただ患者を益するためであり、あらゆる勝手な戯れや堕落の行いを避ける。男女や自由人と奴隷の違いを考慮しない。

8. 医に関すると否とに関わらず他人の生活について秘密を守る。

9. この誓いを守り続ける限り、私は医術の実施を楽しみつつ全てに人から尊敬されるであろう。もしこの誓いを破るならばその反対の運命をたまわりたい。

<strong>F塾長</strong>
F塾長

【ヒポクラテス Hippocrates】

・紀元前460年ごろ ギリシャ コス島の生れ。

・医学をそれまでの呪術や迷信から切り離し、臨床や観察を重視した科学に発展させたため、「医学の父」、「医聖」などとよばれています。

・医学の発展に対する功績は絶大で、その名を後世に残しています。
 ・ヒポクラテス顔貌・・・末期がんなどにみられる死相。
 ・ヒポクラテス指 ・・・慢性呼吸器疾患やチアノーゼ患者にみられるばち状指。
 ・ヒポクラテス整復法・・肩関節脱臼や顎関節脱臼の整復法。

柔道整復師の倫理綱領

・社団法人全国柔道整復学校協会、社団法人日本柔道整復師会の共同制定。

・昭和62年(1987年)、柔道整復師の学術の研鑽と共に高い倫理性をそなえることが柔道整復師の進歩発展につながるものと考え、制定された。

 国民医療の一端として柔道整復術は、国民大衆に広く受け入れられ、民族医学として伝承してきたところであるが、限りない未来へ連綿れんめんとしてさらに継承発展すべく、倫理綱領を定めるものとする。ここに柔道整復師は、その名誉を重んじ、倫理綱領の崇高すうこうな理念と、目的達成に全力を傾注することを誓うものである。

・柔道整復師の職務に誇りと責任を持ち、仁慈の心をもって人類への奉仕に生涯を貫く。

・日本古来の柔道精神を涵養かんようし、国民の規範となるべく人格の陶冶とうやに努める。

・相互に尊敬と協力に努め、分をわきまえ法を守り、業務を遂行する。

・学問を尊重し技術の向上に努めると共に、患者に対して常に真摯しんしな態度と誠意をもって接する。

・業務上知りえた秘密を厳守すると共に、人種、信条、性別、社会的地位などに関わらず患者の回復に全力を尽くす。

患者中心の医療への変遷

 古くから医療における倫理観は、『ヒポクラテスの誓い』にみられるように博愛精神、慈善行為としてとらえられ、近代まで広く社会に容認されてきた。日本でも「医は仁術」とされ医療倫理感の根幹とされてきた。

 しかし近代になり医療、医学が発展し、また人権運動の高まりから親が子を思うような気持ちで行う医療(パターナリズム)は否定され、患者の自主性を尊重し、自己決定権に重きを置くようになってきている。

パターナリズム  paternalism

・強い立場にある者(医師)が弱い立場にある者(患者)の為だとして、患者の意思は問わずに介入・干渉・支援すること。

・医師を頂点とした父権主義、権威主義ともいわれる。

・現代においては患者の権利を害するものとして患者中心の医療の対極の概念とされている。

バイオエシックス bioethics

生命倫理と訳される。

・1970年代ごろから、医学や科学の発展に伴い、それらが人体にもたらす影響などを倫理、道徳も含めて総合的に研究しようとする学問。

・研究対象は患者の権利、インフォームド・コンセント、脳死と臓器移植、体外受精、ターミナルケアと尊厳死など多岐にわたる。

患者とのコミュニケーション

1)施術者の態度
・患者に対し共感的、理解的、支持的態度を示す。

2)情緒的対応
・患者の訴えを傾聴し、支持、共感し尊重する。

患者の権利

憲法上の権利

基本的人権(第11条)

 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。

平等権(第14条)

 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

生存権(第25条)

・すべて国民は、健康文化的最低限度の生活を営む権利を有する。

・国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

患者の権利

・1981年、ポルトガルのリスボンにおける世界医師会総会で『患者の権利に関するリスボン宣言』として採択された。

1)良質の医療を受ける権利
2)選択の自由の権利
3)自己決定の権利
4)意識喪失患者・法的無能力者が代理人の付託する権利
5)患者の意思に反する処置・治療に対する権利
6)医療情報に関する権利
7)秘密保持に関する権利
8)健康教育を受ける権利
9)尊厳性が守られる権利
10)宗教的支援を受ける権利

良質の医療を受ける権利

a.すべての人は、差別なしに適切な医療を受ける権利を有する。

選択の自由の権利

a.患者は医療・保健サービス機関を自由に選択し、また変更できる権利を有する。

b.患者はいつでも他の医師の意見を求める権利を有する。(セカンド・オピニオン

自己決定の権利

a.患者は、自分自身に関わる自由な決定を行うための自己決定の権利を有する。またいかなる治療に対しても同意あるいは拒否を選択できる。

b.患者は自己決定を行ううえで必要とされる情報を得る権利を有する。

意識のない患者

a.患者が意識不明の場合は、代理人からインフォームド・コンセントを受けなければならない。

b.代理人がおらず、緊急に医療が必要な場合は、患者の同意があったとする。ただし患者の事前の明確な意思表示により医療を拒絶する場合を除く。

c.自殺企図によるものは患者の生命を救うよう努力すべきである。

法的無能力の患者

a.患者が未成年や(認知症や精神疾患により)法的無能力者の場合は、代理人の同意を必要とする。それでもなお患者は意思決定に関与すべきである。

患者の意思に反する処置

・患者の意思に反する治療は、特別に法律が認めるか医の倫理の諸原則に合致する場合には、例外的な事例としてのみ行うことができる。

医療情報に関する権利

・患者は、いかなる記録であろうと、自己の情報を受ける権利を有し、また十分な説明を受ける権利を有する。

秘密保持に関する権利

・患者の健康状態、症状、診断、予後および治療について個人を特定しうるあらゆる情報は、患者の死後も秘密が守られなければならない。

健康教育を受ける権利

・すべての人は、個人の健康と保健サービスの利用について、情報を与えられたうえでの選択が可能となるような健康教育を受ける権利がある。

尊厳性が守られる権利

a.患者の尊厳とプライバシーは、医療と医学研究の場において尊重されるものとする。

b.患者は、苦痛を緩和される権利を有する。

c.患者は、終末期ケアを受ける権利を有し、尊厳を保ち安楽に死を迎える助力を受ける権利を有する。

宗教的支援を受ける権利

a.患者は、信仰する宗教の聖職者による支援を含む、精神的、道徳的慰問を受けるか受けないかを決める権利を有する。

例)宗教的理由により患者が輸血を拒否する場合は、医療者の救命義務よりも患者の自己決定意思が優先されることがある。

インフォームド・コンセント informed consent

・「十分な説明を受け理解した上での同意」を意味する。

・旧来の医師の権威に基づく(パターナリズム)医療を改め、患者の自己決定権を尊重する概念。

・ナチスドイツの人体実験への反省をもとに作られたニュルンベルク綱領をもとに1964年に世界医師会総会で「ヘルシンキ宣言」として採択された。

・日本では1997年、医療法の改正によって医療者に義務があることが明文化されている。

説明と同意を得る内容

1)医療行為の必要性(病名、病状)

2)治療法の内容、期間、危険性、副作用、費用

3)予測される結果、回復の可能性

4)他の治療法の有無

インフォームド・コンセントが困難な場合

1)未成年の患者
・幼児に対しては保護者の同意のもとに診療行為が行われる。(予防接種など)
・とはいえ子供に対してインフォームド・コンセントが不必要というわけでなく、子供の理解度に応じてわかりやすく説明し、納得、同意を得るという考え方をインフォームド・アセントという。

2)意思疎通が困難な患者
・意識障害や認知症などで判断能力を欠く場合、家族の同意をもとに診療行為が行われる。

3)精神疾患患者
・治療が必要と判断されたとき、患者本人の意思にかかわらず保護者の同意をもとに入院させる制度を医療保護入院という。
・自傷他害の恐れがある場合は、保護者の同意なしでも強制的に入院させる制度を措置入院、緊急措置入院という。

4)救急患者
・患者が生命の危機に瀕し時間的余裕がない場合、事前の説明と同意を省略し、治療を行った後の説明を行うのはやむを得ないとされる。

個人情報保護

個人情報とは

・生存している個人の情報で、特定の個人を識別できるもの。

・個人識別符号が含まれるもの。

・暗号化、電磁記録化されたデータも含まれる。

例)氏名、生年月日、住所、勤務先、音声録音記録、顔写真など

・死者に関する情報は含まれない。

・個人情報保護法によって個人情報の取扱いが規定され、個人情報取扱事業者は違反すると刑事罰が科される。

個人識別符号

・文字、番号、記号で特定の個人を識別することができるもの。

・対象ごとに番号や記号が割り振られているようなもの。

例)指紋、顔認識データ、免許証番号、マイナンバー、健康保険証等

要配慮個人情報

・本人に不当な差別、偏見、不利益が生じないように配慮を要する情報。

例)人種、信条、社会的身分、病歴、障害の有無、犯罪歴、犯罪被害の事実など

個人情報取扱事業者

・個人情報等のデータベースを事業に用いるもの。

・取扱うデータの数は問わない。(かつて5000件以下は対象外であった。)

<strong>F塾長</strong>
F塾長

当然、施術所(整骨院、接骨院)も個人情報取扱事業者です!

個人情報取扱事業者の対象外

1)国、地方公共団体、独立行政法人、地方独立行政法人
 例)省庁、県庁、市役所、保健所、裁判所、警察、国立病院など

2)報道機関

3)著述を業として行う者

4)宗教団体

5)政治団体

個人情報取扱事業者の義務

1)個人情報を取り扱うに当たっては利用目的をできる限り特定し、原則として利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱ってはならない。

2)個人情報を取得する場合には、利用目的を通知・公表しなければならない。なお、本人から直接書面で個人情報を取得する場合には、あらかじめ本人に利用目的を明示しなければならない。

3)個人データを安全に管理し、従業員や委託先も監督しなければならない。

4)あらかじめ本人の同意を得ずに第三者に個人データを提供してはならない。

5)事業者の保有する個人データに関し、本人からの求めがあった場合には、その開示を行わなければならない。

6)事業者が保有する個人データの内容が事実でないという理由で本人から個人データの訂正や削除を求められた場合、訂正や削除に応じなければならない。

7)個人情報の取扱いに関する苦情を、適切かつ迅速に処理しなければならない。

国家試験過去問 

問題 施術者の態度で誤っているのはどれか。(第30回)

1.理解的態度
2.支持的態度
3.評価的態度
4.共感的態度

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問題 患者の権利(リスボン宜言)で規定されていないのはどれか。(第30回)

1.健康教育を受ける権利がある。
2.情報に対する権利がある。
3.医療従事者と連携する権利がある。
4.宗教的支援を受ける権利がある。

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答え 解なし

 全員正解とし採点除外となっています。

 リスボン宣言で明確に規定されていないのはとなりますが、患者は医療従事者と連携、協力する権利(というか義務)があるので間違いではないということになったと思われます。

リスボン宣言をみる





問題 患者への病状・治療方針の説明で誤っているのはどれか。(第29回)

1.患者が子供であっても同意を得る。
2.患者が理解できない説明は省く。
3.患者が質問する機会を作る。
4.患者の希望を尊重する。





問題 患者の権利で正しいのはどれか。(第29回)

1.法令遵守
2.危機管理
3.秘密保持
4.利益供与

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問題 個人情報の保護に関する法律で正しいのはどれか。(第29回)

1.国の機関は個人情報取扱事業者となる。
2.生存する個人の情報が対象である。
3.要配慮個人情報から病歴は除かれる。
4.個人識別符号に電磁的方式で記録された文字は含まない。

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答え 2

1.国や地方公共団体の機関(省庁、市役所、警察、国立病院など)は個人情報取扱事業者の適用除外となります。

個人情報保護をみる





問題 インフォームド・コンセントはどれか。(第28回)

1.患者を差別しないこと。
2.患者の優先順位を決定すること。
3.患者の治療歴を聴取すること。
4.患者に説明して同意を得ること。

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問題 個人情報の保護に関する法律で個人情報取扱事業者になるのはどれか。(第28回)

1.厚生労働省
2.東京都
3.接骨院
4.国立がん研究センター

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問題 患者の権利として誤っているのはどれか。(第27回)

1.プライバシーの権利
2.黙秘権
3.知る権利
3.自己決定権

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答え 

黙秘権は、被疑者や被告人の権利です。

患者の権利をみる





問題 小児疾患における「説明と同意」はどれか。(第26回)

1.リスボン宣言
2.医療コンプライアンス
3.セカンドオピニオン
4.インフォームド・アセント

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問題 インフォームド・コンセントで誤っているのはどれか。(第19回)

1.患者に対する医師等医療関係者の説明義務である。
2.日本では1997年医療法改正によって努力義務として規定された。
3.自己決定権を持つ患者に対し施術等について説明や情報を提供しなければならない。
4.柔道整復師は医師の指示により行わなければならない。

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答え 

.柔道整復師は医師の指示によらず、自らの判断と責任において行う必要があります。

インフォームド・コンセントをみる





問題 患者の自己決定権で正しいのはどれか。(第18回)

1.我が国の法律では認められていない。
2.自己の終末期医療を含む。
3.医療保険適用の治療に限られる。
4.生存権を根拠とする。

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答え 

1.医療法では医師および医療従事者に、患者に対する説明義務があると明記されています。このことから拡大解釈すると患者の自己決定権が法律で認められることになります。

3.医療保険適用だけでなく、全ての医療(実費治療含む)の患者が対象です。

4.患者の権利(リスボン宣言)を根拠としています。

患者の権利をみる





問題 患者の権利について正しいのはどれか。2つ選べ。(第15回)

1.適切な説明を求めることができる。
2.未成年者に権利はない。
3.憲法上の権利から保障される。
4.裁判所の判決はない。

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答え 1,3

.患者には適切な説明を求める権利があり、医療側には説明をする義務があります。

2.未成年者、意識喪失、精神疾患を含め、全ての患者に権利があります。

.基本的人権(第11条)、平等権(第14条)、生存権(第25条)により保証されています。

4.『エホバの証人輸血事件』
・信仰上の理由により輸血拒否した患者に、手術中に無断で輸血してしまった医師に対し患者側が「患者の自己決定権を侵害した」として訴訟を起こしたものです。
・最高裁判決により原告側の勝訴が確定しました。

参考文献

・厚生労働省『専門職としての意識と責任』
・医歯薬出版「社会保障制度と柔道整復師の職業倫理」

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