こんにちは。塾長のFです。
呼吸のしくみ第3弾です。酸素解離曲線の問題は国家試験に多く出題されています。
苦手な人も多いと思いますが、ちょっとした理解とコツで解けるようになりますよ!
下の方に過去問も載せています。先に過去問からしたい人はこちら(国家試験過去問)。
今日もF塾でガッツリ勉強していきましょう!
ガス交換
生物の細胞は酸素を消費し、二酸化炭素を排出する。
そのために大気から酸素を取り込み、二酸化炭素を大気に放出する必要がある。
酸素や二酸化炭素などガスの経路の略図を記す。
大気 ⇔ 気道 ⇔ 肺胞 ⇔ 血液 ⇔ 細胞
大気と血液の間でのガス交換は肺胞で行われ、酸素や二酸化炭素はガス分圧の差に従って移動する。
ガス分圧とは
大気には圧力があり、大気圧という。大気圧は海抜0m地点で760㎜Hgである。
㎜Hgは「水銀柱」ともいい、760㎜Hgは「真空ならば重力に逆らって水銀を76cm垂直に押し上げる力」と等しいことになります。
同じ気圧でも気象予報ではhPa(ヘクトパスカル)が使われます。
大気圧は海抜0mで1,013hPaです。
大気は様々なガスの混合気体で、それぞれの比率に応じて気圧を受け持つことになる。これをガス分圧という。
大気中の酸素の割合は21%なので、酸素のガス分圧は156㎜Hg(大気圧760㎜Hgの21%) である。
酸素分圧、二酸化炭素分圧はそれぞれPO2、PCO2と表す。
ガス組成 | 比 率 % | ガス分圧 ㎜Hg |
---|---|---|
窒 素 N2 | 78 | 579 |
酸 素 O2 | 21 | 156 |
アルゴン Ar | 0.9 | 6.7 |
二酸化炭素 CO2 | 0.03 | 0.2 |
水蒸気 H2O | 17.5 (20℃の場合) | |
大気圧 | 100 | 760 |
ガス交換のしくみ
吸気(PO2=156㎜Hg、PCO2=0.2㎜Hg)は肺胞に入り、肺胞内に残っていた空気(残気)と混合し、肺胞気(PO2=100㎜Hg、PCO2=40㎜Hg)となる。
肺胞気は、右心室から肺動脈を経て肺胞付近に達した血液(静脈血)よりも酸素分圧が高く、二酸化炭素分圧が低い。
肺胞と血液の間で、酸素と二酸化炭素が拡散によって、それぞれガス分圧の高い方から低い方へ移動する。
このガス交換は「液体に溶け込む気体の量は、気体の圧力に比例する。」というヘンリーの法則に従う。
すなわち肺胞気[PO2=100㎜Hg、PCO2=40㎜Hg]に触れる血液も同じ[PO2=100㎜Hg、PCO2=40㎜Hg]となる。
また循環血液と全身の細胞との間のガス交換も同様のしくみでガス交換される。
ガス分圧のまとめ
ガス交換の結果、各部位のガス分圧は下記となる。
吸 気 | 呼 気 | 肺 胞 | 動脈血 | 静脈血 | 体細胞 | |
---|---|---|---|---|---|---|
酸素分圧(PO2) | 156 | 120 | 100 | 96 | 40 | 40 未満 |
二酸化炭素分圧(PCO2) | 0.2 | 30 | 40 | 40 | 46 | 46 以上 |
【よくある勘違い】
呼気は肺胞気より酸素分圧が高いです!
「呼気は酸素が少ない」というイメージですが、肺胞気は呼出されるときにガス交換されていない吸気(死腔)と混じるので呼気は肺胞気より酸素分圧が高くなります。
血液による酸素の運搬
肺胞から拡散によって血液に移動した酸素はその大部分(98%)が赤血球のヘモグログビンと結合することによって運ばれる。残りのわずかな分は血漿に直接溶け込んで運ばれる。
ヘモグロビンと酸素の結合度合いは血中酸素分圧によって変化する。その変化は酸素解離曲線によってあらわされる。
酸素飽和度とは、酸素と結合しているヘモグロビン(酸化ヘモグロビン)の割合を示す。
上図では酸素分圧が100㎜Hgのとき酸素飽和度は98%、酸素分圧が40㎜Hgのとき酸素飽和度は75%となっている。これは酸素分圧が高ければヘモグロビンと酸素は結合しやすく、酸素分圧が低ければ解離しやすくなることを表している。
以下に酸素とヘモグロビンが解離する因子を列挙する。
【酸素とヘモグロビンが解離する因子】
1)酸素分圧の低下
2)二酸化炭素分圧の上昇
3)血液温度の上昇
4)pHの低下(水素イオン濃度の上昇)・・・ボーア効果という。
5)DPG(2,3-ジホスホグリセリン酸)
この事実は血液中の酸素を体組織へ運搬するのに非常に都合の良いしくみとなっている。
いま、動脈血が代謝が盛んな筋細胞付近にやってきたとする。
代謝が盛んな組織では酸素消費が多く、二酸化炭素や水素イオンを排出している。また温度も高くなっているため、血液中の酸素とヘモグロビンが解離しやすくなる。
酸素とヘモグロビンが解離することによって、酸素を必要としている細胞に渡すことができる。
今度は静脈血が肺胞付近にやってきたとする。
肺胞付近では酸素分圧が高く、二酸化炭素分圧が低い。また肺胞気は血液より温度が低くなっているため、酸素とヘモグロビンが結合しやすくなる。
酸素解離曲線のまとめ
ヘモグロビンと酸素が | 結合しやすい条件 | 離開しやすい条件 |
---|---|---|
グラフ | 左上方 偏位 | 右下方 偏位 |
酸素分圧 | 上 昇 | 低 下 |
二酸化炭素分圧 | 低 下 | 上 昇 |
水素イオン濃度 | 低 下 | 上 昇 |
pH | 上 昇 | 低 下 (ボーア効果) |
温 度 | 低 下 | 上 昇 |
DPG (2,3-ジホスホグリセリン酸) | 減 少 | 増 加 |
血液中の二酸化炭素の運搬
細胞の代謝活動の結果生じた二酸化炭素は血液によって肺胞に運ばれ、呼吸によって体外に排出される。
細胞から血液へ
細胞から血液中に拡散した二酸化炭素は、赤血球中の炭酸脱水酵素の働きで水と反応して炭酸(H2CO3)となる。
さらに炭酸は水素イオン(H+)と重炭酸イオン(HCO3-)に解離する。
CO2 + H2O → H2CO3 → H+ + HCO3-
水素イオンは酸素と結合していないヘモグロビン(還元化ヘモグロビン)と結合し、重炭酸イオンは赤血球から血漿に拡散され運ばれる。
すなわち二酸化炭素の多くは重炭酸イオンに形を変え、運搬されることになる。
水素イオンが血漿中に存在するとpHが低下(酸性)するので、この反応は緩衝作用(pHを一定にする働き)に機能している。
ちょっと難しいですね。
ここでは二酸化炭素と水素イオンが酸性物質ということを覚えておきましょう。
細胞が活動すると血液がどんどん酸性になっていくので、中和しようとしているのがこの反応です。
また二酸化炭素の一部は血漿タンパクやヘモグロビンのアミノ基と結合しカルバミノ化合物を形成し、この形で運搬される。
わずかだが血漿や赤血球内に物理的に溶解して運ばれる。
血液から肺胞へ
肺胞付近では組織と血液で起きた反応の逆向きの反応が起こる。
CO2 + H2O ← H2CO3 ← H+ + HCO3-
血漿中の重炭酸イオンが肺胞付近まで運ばれると、ヘモグロビンから解離した水素イオンと結合し炭酸となる。炭酸は水と二酸化炭素に分離する。
二酸化炭素はガス分圧に従って血漿から肺胞へ拡散し、体外へ排出される。
二酸化炭素の運搬のまとめ
1)二酸化炭素が運搬されるときの形
・重炭酸イオンとして ・・・67%
・カルバミノ化合物として ・・・25%
・血漿や赤血球に物理的に融解・・・ 8%
2)二酸化炭素は酸性物質なので、重炭酸イオンとして運搬され体外へ排出することは緩衝作用として働く。
国家試験過去問
問題 血液中の二酸化炭素の運搬形態で最も多いのはどれか。【第29回】
1.重炭酸イオン
2.カルバミノ化合物
3.血漿に物理的に溶解したもの
4.赤血球中に物理的に溶解したもの
問題 へモグロビンの酸素親和性を低下させる因子の組合せはどれか。【第28回】
1.血中pH 上昇 ― 体温 上昇
2.血中pH 上昇 ― 体温 低下
3.血中pH 低下 ― 体温 上昇
4.血中pH 低下 ― 体温 低下
問題 酸素分圧が最も高いのはどれか。【第26回】
1.吸 気
2.呼 気
3.肺胞気
4.動脈血
問題 ヘモグロビンの酸素解離曲線が左方偏移する要因はどれか。【第23回】
1.血圧の上昇
2.血液のpHの上昇
3.血液の温度の上昇
4.血液の二酸化炭素分圧の上昇
問題 ヘモグロビンが酸素を解離しやすい要因はどれか。【第22回】
1.酸素分圧の上昇
2.温度の上昇
3.pHの上昇
4.塩素濃度の上昇
問題 ヘモグロビンからの酸素解離を促進するのはどれか。【第19回】
1.酸素分圧上昇
2.二酸化炭素分圧低下
3.低 温
4.アシドーシス
問題 ヘモグロビンと酸素の結合を低下させる要因はどれか。【第18回】
1.酸素分圧の上昇
2.体温の上昇
3.二酸化炭素分圧の低下
4.pHの上昇
問題 ヘモグロビンの酸素解離曲線に関して誤っているのはどれか。【第16回】
1.温度の高い組織では、酸素の解離は多くなる。
2.pHの低い組織では、酸素の結合は少なくなる。
3.代謝が低下した組織では、曲線は右方へシフトする。
4.CO2分圧の低い組織では、酸素結合度は上がる。
問題 酸素分圧が最も高いのはどれか。【第13回】
1.静脈血
2.動脈血
3.肺胞気
4.呼 気
問題 酸素分圧の正常値について誤っている組合せはどれか。【第11回】
1.静脈血 ── 40㎜Hg
2.動脈血 ── 70㎜Hg
3.肺胞気 ── 100㎜Hg
4.呼気 ─── 120㎜Hg
問題 二酸化炭素の運搬に関与しないのはどれか。【第8回】
1.炭酸脱水酵素
2.ヘモグロビン
3.カルバミノ化合物
4.血漿カルシウムイオン
参考文献
・南江堂「生理学 改訂第3版」
・南江堂「生理学 改訂第4版」
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