こんにちは。塾長のFです。
ヒトは生きていくためには酸素が必要、だから呼吸する。
当たり前すぎてあまり深く考えませんが、実際、われわれはどのように呼吸しているのでしょうか?
いや、どうやったら息を吸えるのか? のほうが正しい表現かもしれません。
今日はそういった呼吸のしくみについて一緒に勉強していきましょう!
呼吸の必要性
生体は、栄養素を燃焼(酸化)し、そこから生じるエネルギー(ATP)を利用して生命活動を営んでいる。
栄養素は食物から摂取される糖質、脂質、タンパク質であり、それらを燃焼するには酸素が必要である。また燃焼した結果として二酸化炭素が発生する。
車に例えるなら、栄養素はガソリンであり、ガソリンを燃焼するためにはエンジンに酸素を供給し、排気ガスとして二酸化炭素を排出しなければならない。
生体が車と違うところは、車にはエンジンは1つしかないが、生体ではエネルギーを産生しているのは60兆個の個々の細胞ということである。
個々の細胞に酸素を運び、二酸化炭素を持ち出す経路は血流である。
すなわち呼吸には2種類の意味がある。
① 外界(大気)と血液の間で酸素と二酸化炭素のガス交換をするしくみを外呼吸という。
② 血液と体細胞の間で酸素と二酸化炭素のガス交換をするしくみを内呼吸という。
一般に呼吸とは外呼吸を指す。
換気のしくみ
吸息と呼息
換気とは、肺胞気と血液の間でガス交換するために空気を出し入れすることである。
換気は、空気を肺胞に入れる吸息と、肺胞から空気を出す呼息からなる。
原則として、空気は圧力の高い方から低い方へ移動する。したがって、
吸息には、肺胞を拡張させ肺胞内圧を陰圧(大気圧よりも下げる)にする必要がある。
呼息では、肺胞が縮小し肺胞内圧を陽圧(大気圧よりも上げる)でなければならない。
だが肺は心臓と違い筋が無いため、自ら拡大縮小することはできない。
胸膜腔
肺は、周りを胸膜腔という閉ざされた空間で覆われている。
胸膜腔の内圧が下がると、肺胞の周りの圧力が下がり、肺胞が拡張する。
胸膜腔の内圧が上がると、肺胞の周りの圧力が上がり、肺胞が縮小する。
胸膜腔の内圧を変化させるには、胸膜腔を構成する横隔膜の収縮・弛緩と胸郭の拡大・縮小が重要である。
なお、胸膜腔の内圧は常に大気より陰圧である。
横隔膜
胸郭の底面にある横紋筋。第3~5頸神経の横隔神経に支配される。
収縮すると、底部を押し下げ、胸郭容積が増大(胸膜腔内圧が低下)する。
弛緩すると、胸腔側へ押し上がり、胸郭容積が減少(胸膜腔内圧が上昇)する。
安静時の呼吸の75%は横隔膜の作用によるものである。
なお横隔膜による呼吸を腹式呼吸といい、男性は腹式呼吸の傾向が強い。
胸 郭
胸骨、肋骨、胸椎、肋間筋、横隔膜で構成され、内表面を壁側胸膜で覆われる。
外肋間筋が収縮すると、肋骨が挙上し、胸郭容積が増大(胸膜腔内圧が低下)する。
外肋間筋が弛緩すると、肋骨が降下し、胸郭容積が減少(胸膜腔内圧が上昇)する。
「肩で息をする」とは外肋間筋による呼吸のことで、胸式呼吸という。女性は胸式呼吸の傾向が強い。
まとめ
1)安静時吸息
① 横隔膜が収縮すると胸膜腔の底部が平低下する。
外肋間筋が収縮すると肋骨が挙上する。
② ①の結果、胸郭容積が増大し、胸膜腔内圧が低下する。
③ ②の結果、肺胞が拡張し肺胞内圧が陰圧化する。
④ ③の結果、大気が肺胞内に流入する。
【内圧? 陰圧?】
胸膜腔内圧は呼息のときも陰圧なので、吸息のときはより陰圧(マイナスが大きくなる)になります。
内圧が低下 = 陰圧が増大
なので要注意です。
2)安静時呼息
・筋の収縮によるものではなく、横隔膜と外肋間筋が弛緩すると呼息に切り替わる。
3)努力性吸息
・さらに胸郭を拡大させるため、大胸筋、小胸筋、斜角筋群、胸鎖乳突筋、脊柱起立筋などが収縮する。
4)努力性呼息
・内肋間筋、肋下筋が収縮すると肋骨が下がり、胸膜腔内圧が上昇する。
・腹横筋、腹斜筋などが収縮し、腹圧が高まると横隔膜が押し上げられ、胸膜腔内圧が上昇する。
吸 息 | 呼 息 | |
胸郭容積 | 拡 大 | 縮 小 |
胸膜腔内圧 | 陰 圧 -6㎜Hg | 陰 圧 -2.5㎜Hg |
肺胞内圧 | 陰 圧 -1㎜Hg | 陽 圧 +1㎜Hg |
安静時呼吸に働く筋 | 横隔膜 外肋間筋 | どの筋も収縮しない (横隔膜と外肋間筋の弛緩) |
努力性呼吸に働く筋 | 斜角筋群 胸鎖乳突筋 大胸筋 小胸筋 脊柱起立筋 | 内肋間筋 肋下筋 腹斜筋 腹横筋 |
呼吸筋の仕事量
呼吸筋、とくに吸息筋(横隔膜と外肋間筋)の仕事量はコンプライアンスと気道抵抗によってきまる。
呼吸筋の仕事量 | 増 加 | 減 少 |
コンプライアンス (肺胞のふくらみやすさ) | 低 下 | 上 昇 |
気道抵抗 | 増 加 | 減 少 |
コンプライアンス
コンプライアンスとは肺胞のふくらみやすさのことである。
コンプライアンスの低下(肺胞がふくらみにくい) = 吸息筋の仕事量が増加
コンプライアンスの上昇(肺胞がふくらみやすい) = 吸息筋の仕事量が減少
肺胞のふくらみやすさは下記の要素で決まる。
1)肺胞の弾性線維
・肺胞はゴム風船と同じで、膨らんだら元に戻ろうとする性質があり、肺胞をつぶす方向に力が働く。
・間質性肺炎では肺胞周囲の線維化が進行し、コンプライアンスが低下する。
2)肺胞内面の表面張力
・肺胞の内表面に薄く張る液体のもつ表面張力で、肺胞をつぶす方向に力が働く。
3)肺胞サーファクタント
・Ⅱ型肺胞上皮細胞によって肺胞内面に分泌される表面活性物質。
・表面張力を打ち消す作用、すなわち肺胞が広がる方向に力が働く。
・未熟児では分泌量が低下し、重篤な呼吸困難を呈することがある。(新生児呼吸窮迫症候群 RDS)
4)喫 煙
・喫煙による肺胞の線維化は、肺胞を広がりにくくする。
気道抵抗
・気道内を空気が流れるときの「通りやすさ」に関わる。
・気管支喘息では、気管支平滑筋が収縮、気道内への分泌液が増加し、気道抵抗が増加する。
国試過去問
問題 呼吸筋の仕事量を増大させる因子の組合せはどれか。(第30回)
1.肺コンプライアンスの増加 ― 気道抵抗の増加
2.肺コンプライアンスの増加 ― 気道抵抗の低下
3.肺コンプライアンスの低下 ― 気道抵抗の増加
4.肺コンプライアンスの低下 ― 気道抵抗の低下
問題 吸息時の肺胞内圧と胸膜腔内圧の組合せで正しいのはどれか。(第27回)
1.肺胞内圧が陽圧 ― 胸膜腔内圧が陽圧
2.肺胞内圧が陽圧 ― 胸膜腔内圧が陰圧
3.肺胞内圧が陰圧 ― 胸膜腔内圧が陽圧
4.肺胞内圧が陰圧 ― 胸膜腔内圧が陰圧
問題 吸息時に起こらないのはどれか。(第21回)
1.胸膜腔内圧の陽圧化
2.横隔膜の収縮
3.肺胞壁弾性力の増大
4.肺胞内の陰圧化
問題 安静呼吸で誤っているのはどれか。(第18回)
1.肺胞内圧は吸息時には陰圧である。
2.胸膜腔内圧は吸息時には陰圧である。
3.肺胞内圧は呼息時には陽圧である。
4.胸膜腔内圧は呼息時には陽圧である。
問題 肺胞の表面活性剤(界面活性剤)で正しいのはどれか。(第17回)
1.肺胞を広がりやすくする
2.表面張力を増大させる
3.気管支上皮細胞が分泌する
4.未熟児に多い
問題 呼息時の肺胞内圧と胸膜腔内圧との組合せで正しいのはどれか。(第14回)
1.肺胞内圧 陽圧 ― 胸膜腔内圧 陽圧
2.肺胞内圧 陽圧 ― 胸膜腔内圧 陰圧
3.肺胞内圧 陰圧 ― 胸膜腔内圧 陽圧
4.肺胞内圧 陰圧 ― 胸膜腔内圧 陰圧
問題 吸息時にみられないのはどれか。(第8回)
1.横隔膜の収縮
2.胸郭内容積の増大
3.内肋間筋の収縮
4.胸膜腔内陰圧の増加
問題 努力性呼息運動に関与するのはどれか。(第5回)
1.横隔神経の興奮
2.腹壁筋の収縮
3.外肋間筋の収縮
4.胸骨の挙上
問題 安静呼息時について正しいのはどれか。(第4回)
1.横隔膜沈下
2.胸腔内陰圧の増加
3.肋骨挙上
4.胸郭縮小
参考文献
・南江堂「生理学 改訂第3版」
・南江堂「生理学 改訂第4版」
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