こんにちは。塾長のFです。
前十字靭帯損傷についてまとめてみました。
問題を解くヒントになると思うので必修の範囲ではないところも記述しています。
下の方に過去問も載せています。先に過去問したい人はこちら(国家試験過去問)。
今日もF塾でガッツリ勉強していきましょう!
*必修範囲は前十字靭帯損傷の診察、検査です。
必要に応じてスキップしてください。
前十字靭帯損傷 anterior cruciate ligament injury
機能解剖と概説
・前十字靭帯(ACL)は、膝関節の関節内靱帯で、脛骨の前内側から大腿骨の後外側に付き、①脛骨の前方移動、②下腿の外反・内旋を制御している。
・スポーツ外傷でも特に発生頻度が高く、競技復帰には観血療法が必須となる。一方、日常生活においては保存療法でも支障のない場合が多い。
発生機序
1)非接触型損傷
・バスケットボール、バレーボールなどカッティング動作(急なブレーキやターン)を伴うスポーツに多い。
・単独損傷(ACLのみ)が多い。
・若い(10代)女性に好発する。(男性の約5倍)
① 膝の過伸展強制により発生する。
・大腿四頭筋の張力が関与している。
② 下腿の外反・外旋強制(膝が内に入る動き)により発生する。
なぜ女性に多いのか?
・女性は男性に比べ、反張膝の傾向が強く、Q角が大きいことが原因となる。
・反張膝は膝が後ろに反っている(過伸展) = 脛骨が前方に傾斜しているので、前十字靭帯が緊張しやすくなる。
・Q角とは、上前腸骨棘と膝蓋骨中央を結んだ線(大腿四頭筋の長軸)と、膝蓋骨中央と脛骨粗面を結んだ線(膝蓋靱帯の長軸)の交点がなす角度。通常は10~15°。
・女性は骨盤の横径が大きいのでQ角が増大する。
・Q角が大きい = 外反膝(X脚) であり膝の外反強制時に、前十字靭帯がより緊張する。
2)接触型損傷
・柔道の体落としやラグビーのタックルなど、膝外反・外旋を強制され発生する。
・内側側副靱帯や内側半月など合併損傷(不幸の三徴)が多い。
症 状
1)断裂音(pop音)
・完全断裂時に聞かれることがある。
2)関節血腫
・膝蓋跳動で確認できる。
3)関節可動域の低下
・膝屈曲制限がみられる。
・血腫により関節包内の内圧が上昇、膝屈曲位ではさらに内圧が上昇するために起こる。
4)終末強制回旋運動の消失
・終末強制回旋運動とは、膝関節屈曲位から最終伸展する際にみられる脛骨の不随意の外旋のこと。
5)膝崩れ現象 giving way
・膝崩れとは、立位や歩行中に膝がカクンと抜けるように屈曲し、転倒しそうになる現象。
・その際、膝関節が外反していると脛骨外側顆の前外方への亜脱臼を生じる。これを前外側回旋不安定性(ALRI)という。
・静的支持機構(靱帯や半月)の低下や動的支持機構(大腿四頭筋の筋力)の低下が原因となる。
・陳旧例で多い。
6)大腿四頭筋の萎縮
・陳旧例でみられる。
・特に内側広筋で著明。
検査法
前方引き出しテスト anterior drawer test
・下腿部の前方偏位を確認する。
① 患者を背臥位、膝直角位とする。
・この際、サグサイン(脛骨の後方落ち込み)を確認しておく。
・サグサインは後十字靭帯損傷を証明する。
② 患側の足部を検者の殿部で固定し、両手で脛骨近位部を把持する。
③ 脛骨近位を前方に引き出し、前方移動(1cm以上)を認めた場合を陽性とする。
ラックマンテスト Lachmann test
・下腿部の移動量と靱帯終末抵抗(エンドポイント)の有無を確認する。
① 患者を背臥位、膝軽度屈曲位とする。
② 一手で大腿遠位部を、他手で脛骨近位部を把持する。
③ 患者に力を抜くよう指示する。
・ハムストリングスが収縮していると陽性を証明しにくい。
④ 脛骨近位部を前方へ、大腿遠位部を後方へ力を加え、靱帯終末抵抗(エンドポイント)がみられなければ陽性とする。
Nテスト/ジャークテスト Jerk test
・前外側回旋不安定性(ALRI)の誘発テスト
① 患者を背臥位、膝直角位とする。
② 一手で下腿近位部を、他手で足部を把持する。
③ 母指で腓骨頭を圧迫し下腿に内旋、外反を加えながら膝を伸展していく。
④ 膝軽度屈曲位(20~30°)付近で、脛骨の外側顆が前内方へ亜脱臼したことを触知すれば陽性とする。
ピポットシフトテスト pivot shift test
・前外側回旋不安定性(ALRI)の誘発テスト
・Nテストのリバーステスト(逆の動作)
① 患者を背臥位、膝伸展位とする。
② 一手で下腿近位部を、他手で足部を把持する。
③ 母指で腓骨頭を圧迫し下腿に内旋、外反を加えながら膝を屈曲していく。
④ 膝軽度屈曲位(20~30°)付近で、脛骨の外側顆が(後外方へ)復位することを触知すれば陽性とする。(ACL断裂の場合、伸展位では亜脱臼している)
固 定
1)固定材料
・金属副子、ギプス、厚紙副子、綿花、ホワイトテープ、巻軸包帯など
2)固定肢位
① 膝関節 軽度屈曲位
② 足関節 中間位
3)固定範囲
・大腿中央部から下腿中央部まで
4)固定期間
・Ⅰ度損傷・・・絆創膏、包帯などで2~3週
・Ⅱ度損傷・・・ギプス、シャーレなどで3~4週
・Ⅲ度損傷・・・観血療法の適応となる。
後療法
1)異常経過
・固定による腓骨神経麻痺
・緊縛包帯による浮腫
・長期固定による関節拘縮
2)運動療法
・大腿四頭筋訓練
① 等尺性収縮のトレーニング(quadiceps setting exercise)
・背臥位で膝の下のボールを押しつぶすような(膝伸展)運動
② 下肢伸展位挙上訓練
③ 等張性収縮のトレーニング
・坐位で床から浮いた下腿を持ち上げる(膝伸展)運動
④ スクワット
予 後
1)競技復帰に時間がかかる。
・完全断裂で、腱再建手術を受けた場合でも最短でも6カ月を要する。
2)関節不安定性が残存する。
3)膝崩れを繰り返すことにより将来的に変形性関節症を呈する場合がある。
4)大腿四頭筋萎縮(とくに内側広筋)がみられる。
国家試験過去問
問題 急性期の前十字靱帯損傷の徒手検査で大腿骨に対する脛骨の偏位方向はどれか。(第30回)
1.前 方
2.後 方
3.側 方
4.回 旋
問題 前十字靱帯損傷の検査法でないのはどれか。(第30回)
1.ピボットシフトテスト
2.ジャークテスト
3.アプライテスト
4.Nテスト
問題 前十字靱帯損傷で膝くずれの原因はどれか。(第29回)
1.大腿筋膜張筋の筋力低下
2.関節支持性の低下
3.関節遊離体の存在
4.持続する疼痛
問題 前十字靱帯損傷患者の訴えでないのはどれか。(第29回)
1.「膝がガクッとなる感じ」
2.「膝がはずれる感じ」
3.「膝の力が入らない感じ」
4.「膝が引っかかる感じ」
問題 前十字靱帯損傷で受傷直後にみられないのはどれか。(第28回)
1.運動痛
2.後方落込徴候
3.不安定感
4.スポーツ活動の続行困難
問題 ラックマンテストで被検者の姿勢はどれか。(第28回)
1.背臥位
2.側臥位
3.腹臥位
4.座 位
問題 ラックマンテストで正しいのはどれか。(第21回)
1.膝関節完全伸展位で実施する。
2.陳旧例の評価には不適切である。
3.エンドポイントがなければ陽性と評価する。
4.ハムストリングスを緊張させると評価しやすい。
問題 前十字靱帯損傷の検査法でないのはどれか。(第17回)
1.ラックマンテスト
2.Nテスト
3.アプレーテスト
4.前方引き出しテスト
参考文献
・南江堂「柔道整復学・理論編 改訂第7版」
・南江堂「柔道整復学・実技編 改訂第2版」
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