肩関節脱臼のまとめ【必修問題】

必修問題のまとめ

こんにちは。塾長のFです。

2022年度版(第31回国家試験向け)の必修問題の範囲をまとめてみました。

問題を解くヒントになると思うので必修の範囲ではないところも記述しています。

下の方に過去問も載せています。先に過去問したい人はこちら(国家試験過去問)。

今日もF塾でガッツリ勉強していきましょう!

肩関節脱臼 dislocation of the sholder joint

*必修範囲は肩関節前方脱臼診察整復固定です。
 必要に応じてスキップしてください。

概 説

脱臼のなかでもっとも頻度が高い。

【発生頻度が高い理由】
1)関節窩が上腕骨頭に対して小さく浅い。
2)関節包や靱帯に緩みがある。
・これらは肩関節のきわめて広い可動域確保に貢献しているが、それゆえに脱臼しやすいという相反する作用がある。

3)関節の固定を筋に依存している。
・下肢の関節のような重力による荷重が加わっていない。

4)身体の突出した部分にあり外力を受けやすい。
・直達外力でも発生しうる。

分 類

1)前方脱臼
① 烏口下脱臼
② 鎖骨下脱臼

2)後方脱臼
① 肩峰下脱臼
② 棘下脱臼

3)下方脱臼
① 腋窩脱臼
② 関節窩下脱臼

4)上方脱臼
① 烏口突起上脱臼

ここから下は前方脱臼に関する記述です。

発生機序

1)直達外力
後方からの外力によって起こる。

2)介達外力
① 肩関節過伸展強制
・転倒して後ろ手に手掌を衝いた際。

② 槓杆作用
・肩過度外転により上腕骨近位端部が関節窩上縁または肩峰に衝突しておこる。

③ 自家筋力
・物を投げる際の外転、外旋動作によって発生する。

症 状

1)烏口下脱臼

弾発性固定
・肩関節軽度外転(約30°)・内旋位をとる。
・軽度外転位の上腕を側胸壁につけても手を放すと、ただちに元の位置に戻る。

三角筋部の膨隆が消失する。

肩峰が角状に突出する。

モーレンハイム窩(三角筋胸筋溝)が消失、または膨隆する。
・「窩が消失する=膨隆する」ことに注意。

骨頭の位置異常
・肩峰下は空虚となる。
・烏口突起下に骨頭を触れる。

2)鎖骨下脱臼

① 骨頭は烏口下脱臼より内方へ触れる。

② 烏口下脱臼より外転度が大きい。ときに水平位をとる。

③ 上腕が短縮してみえる。(仮性短縮)

合併症

1)骨 折
大結節骨折
・腱板(棘下筋、小円筋など)の牽引による裂離骨折。

上腕骨外科頸骨折
・肩外転位、肘伸展位で手掌を衝いて転倒したときの外力により発生。

骨性バンカート
・関節窩前下縁の欠損

ヒル・サックス損傷
・上腕骨骨頭の後外方の陥没

2)神経損傷
腋窩神経麻痺
・肩外転不能となる。

筋皮神経麻痺
・肘屈曲力の低下がみられる。

3)血管損傷
腋窩動脈損傷
・橈骨動脈の拍動が消失する。

4)軟部組織損傷
腱板損傷
・牽引力により後方の腱板(棘下筋、小円筋)が損傷
・圧迫力により前方の腱板(肩甲下筋)が損傷

バンカート損傷
・前下縁の関節唇損傷

整復法

1)コッヘル Kocher
① 患者を坐位とし、助手に両肩部を固定させる。
② 軽度外転位の上腕を長軸方向へ末梢牽引する。
③ 牽引を持続しながら上腕を内転させ、側胸壁に接近させる。
④ 続いて前腕が前額面上になるまで肩関節を外旋させる。
⑤ 牽引と外旋を緩めず、肘部を正中線に近づけながら、前胸壁を滑らせるように肩関節を内転前方挙上する。
⑥ 患側手掌が顔の前を通り健側肩にくるように内旋する。

末梢牽引 → 内転 → 外旋 → 屈曲・内転 → 内旋

2)ヒポクラテス Hippocrates(踵骨法)
① 患者を背臥位とし、助手に両肩部を固定させる。
② 術者は患側に接して座り、踵部および足部外側縁を患者の腋窩にあて肩甲骨を固定する。
*腋窩に差し込んだ踵部は、あくまでも肩甲骨の固定が目的であり、勝負で脱転した骨頭を動かすものではない。
③ 両手で前腕遠位部を把持し上腕長軸方向に末梢牽引する。
④ 牽引したまま上腕を外旋外転させる。
⑤ 同時に足底部を深く入れて牽引し、足底部を支点として内転する。
⑥ 術者の膝を越えるように内旋して整復する。

末梢牽引 → 外旋 → 外転 → 内転 → 内旋

3)スティムソン Stimson
・危険な整復操作を必要としない(侵襲性が低い)整復法である。
① 患者を腹臥位とし、患者の肩をベッドの端から外に出す。
② 患肢を下垂させ、肩関節90°屈曲位とする。
③ 患肢の手関節に重錘を取りつけ、放置する。
④ しばらくすると筋が弛緩し、骨頭が正位置に戻る。

4)ゼロポジション牽引法
① 患者を背臥位とする。
② 術者は弾発性固定の肢位(肩関節軽度外転、内旋位)を変えないまま、肘関節を伸展させる。
③ 術者は上腕長軸方向に末梢牽引する。
④ 疼痛が発生しないように徐々に上肢をゼロポジションまで挙上させる。
⑤ 肩周囲の筋が弛緩されれば整復される。整復音はほぼ触知しない

ゼロポジションとは

・上腕軸と肩甲棘軸が一致する肢位です。
・肩関節屈曲・外転140度水平屈曲30度
・腱板の各筋(棘上筋、棘下筋、小円筋)のバランスがよく、肩関節が安定するといわれています。

5)クーパー Cooper(槓杆法)

6)ドナヒュー Donaghue(吊り下げ法)

7)モーテ Mothe(挙上法)

8)ミルヒ Milch(挙上法)

固定法

1)肢 位
・肩関節軽度屈曲内旋位

2)範 囲
肩関節のみの固定とする。

3)固定法
① 局所副子、巻軸包帯、三角巾を用いた固定法
・腋窩に枕子を挿入する。(腋窩神経圧迫防止)
・肩関節の前後面に局所副子をあてる。
・胸を張った姿勢で麦穂帯で包帯固定する。
・三角巾で提肘する。

② 冠名包帯法
・デゾー固定法
・ウェルボー固定法
・ジュール固定法

4)期 間
・30歳代以下の場合・・・5~6週間
・40歳代以上の場合・・・3週間

F塾長
F塾長

若い人の固定期間が長いのは、反復性脱臼を予防するため、
中高年の人の固定期間が短いのは、関節拘縮を防ぐためです。

年齢と固定期間の関係が他の外傷とは逆になっているので、注意しましょう。

整復・固定後の確認

1)全身状態の確認
・ショック状態になっていないか顔色を確認する。
・気分や疼痛の増減を確認する。

2)整復・固定後の確認
① 弾発性固定の消失の確認
・患者に肩関節の軽い自動運動をさせる。

② 神経損傷の有無の確認
・腋窩神経、筋皮神経領域の確認をする。

③ 血管損傷の有無の確認
・橈骨動脈の拍動で確認する。

後遺症

1)反復性脱臼
・初回脱臼の年齢が10~20歳の場合に発生しやすい。
・若年者の脱臼はスポーツや事故などの強力な外力により発生するため、軟部組織損傷の合併が多い。
・スポーツ活動への早期復帰を望むことから、固定期間が短すぎる点が挙げられる。

① 主な原因
a.バンカート損傷
・肩関節窩前下縁の関節唇損傷。

b.骨性バンカート損傷
・肩関節窩前下縁の欠損。

c.ヒルサックス損傷
・上腕骨頭の後外方の陥没。

d.肩甲下筋腱断裂

e.下関節上腕靱帯損傷

f.関節包の弛緩

後療法

1)ストレッチ
・固定除去後に肩関節外転・外旋運動の関節可動域を改善させる。
・中年以降では、五十肩の発生予防にコッドマン体操も有用。

2)筋力トレーニング
・腱板構成筋の強化・・・肩甲下筋、棘下筋、小円筋など
・肩甲帯筋の強化・・・僧帽筋、広背筋、大円筋、三角筋など

国家試験過去問

問題 肩関節烏口下脱臼に対するコッヘル法で第2操作はどれか。(第30回)

1.外 転
2.内 転
3.外 旋
4.内 旋

答えと解説をみる
答え 

コッヘル法の操作手順

末梢牽引 → 内転 → 外旋 → 屈曲・内転 → 内旋

末梢牽引を含めると、第2操作は2.内転となり、
末梢牽引を除くと、第2操作は3.外旋となります。




問題 肩関節烏口下脱臼の固定で用いるのはどれか。(第30回)

1.麦穂帯
2.8 字帯
3.セイヤー絆創膏固定
4.ハンギングキャスト

答えと解説をみる
答え 

2.8字帯、3.セイヤー絆創膏固定は鎖骨骨折の固定法です。

4.ハンギングキャストは上腕骨外科頸骨折や上腕骨骨幹部骨折の固定法です。




問題 肩関節烏口下脱臼の症状で正しいのはどれか。(第29回)

1.上腕長の短縮
2.三角筋部の腫脹
3.水平位で弾発性固定
4.三角筋胸筋三角の消失

答えと解説をみる
答え 

1.上腕長(肩峰~外側上顆)は鎖骨下脱臼なら短縮がありますが、烏口下脱臼ならほぼないといっていいでしょう。

2.三角筋部の膨隆が消失します。

3.弾発性固定の肢位は肩関節軽度外転(約30°)・内旋位です。




問題 肩関節烏口下脱臼の合併症と症状の組合せで誤っているのはどれか。(第29回)

1.大結節骨折   ―  肩関節外側の圧痛
2.筋皮神経麻痺  ―  肩関節外側の感覚障害
3.腋窩動脈損傷  ―  橈骨動脈の拍動消失
4.肩腱板損傷   ―  肩関節の外転障害

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答え 

.筋皮神経麻痺では肘屈曲力の低下がみられます。

肩関節外側の感覚障害腋窩神経麻痺の症状です。




問題 肩関節烏口下脱臼の整復直後の確認で誤っているのはどれか。(第29回)

1.運動痛の有無
2.血管損傷の有無
3.神経麻痺の有無
4.弾発性固定の有無

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答え 

.運動痛は正しく整復された後も残るので、参考にはなりません。

行うべきは「自動運動の可否=弾発性固定の有無」の確認です。




問題 肩関節烏口下脱臼で正しいのはどれか。(第28回)

1.頭部は健側に傾けている。
2.上腕は軽度内転、内旋している。
3.整復前に鎖骨下動脈の拍動を確認する。
4.上腕外側の感覚障害の有無を確認する。

答えと解説をみる
答え 

1.頭部は患側に傾けます。(肩鎖関節脱臼や鎖骨骨折と同じ)

2.弾発性固定の肢位は肩関節軽度外転(約30°)・内旋位です。

3.血管損傷の確認は、橈骨動脈の拍動で確認します。




問題 肩関節烏口下脱臼の外観と類似しているのはどれか。(第28回)

1.上腕骨解剖頸骨折
2.上腕骨外科頸外転型骨折
3.上腕骨大結節単独骨折
4.上腕骨骨幹部骨折

答えと解説をみる
答え 

上腕骨外科頸外転型骨折の外観と類似しています。




問題 肩関節烏口下脱臼の整復で正しい組合せはどれか。(第28回)

1.クーパー法    ―   挙上法
2.コッヘル法    ―   回転法
3.スティムソン法  ―   槙杵法
4.モーテ法     ―   吊り下げ法

答えと解説をみる
答え 

1.クーパー法槓杆法です。

3.スティムソン法吊り下げ法です。

4.モーテ法挙上法です。

参考文献

・南江堂「柔道整復学・理論編 改訂第7版」
・南江堂「柔道整復学・実技編 改訂第2版」


コメント

  1. 西田真奈 より:

    おっしゃ!!
    今日から0点回避です。✌️✌️

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